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糖尿病の合併症

このページでは、糖尿病の合併症について解説致します。

当院での糖尿病診療に対する考え方については「糖尿病診療」のページをご覧下さい。

 

糖尿病と診断され、「合併症」という言葉に不安を感じつつも、「まだ自覚症状はないから大丈夫」と心のどこかで思っていませんか?しかし、その油断こそが、糖尿病の合併症が持つ本当の怖さの始まりなのです。

糖尿病の合併症は、痛みなく進行し、ある日突然、失明人工透析足の切断という形で生活を奪う「サイレントキラー」です。統計的にも、例えば糖尿病患者さんは脳梗塞のリスクがそうでない方の2〜4倍に高まるとされています。

ですが、正しい知識で対策すれば、合併症の発症や進行は防げます。この記事では、あなたの体を静かにむしばむ合併症の正体と、未来の健康を守るための具体的な方法を詳しく解説します。

糖尿病の合併症は大きく2種類|慢性と急性の違い

糖尿病と診断され、「合併症」という言葉に不安を感じている方も多いでしょう。 合併症は、血糖値が高い状態が続くことで全身の血管や神経が傷つき、様々な臓器に障害が起こる病気です。

しかし、正しい知識を持って対策すれば、合併症の発症や進行を防ぐことは十分に可能です。 糖尿病の合併症は、その現れ方によって大きく2つのタイプに分けられます

  • 慢性合併症 :長い年月をかけて、静かに、そして確実に進行します。
  • 急性合併症 :ある日突然発症し、命に関わることもある危険な状態です。

それぞれの特徴を理解し、ご自身の体を守るための適切な対策につなげていきましょう。

慢性合併症:じわじわ進行する血管と神経の障害

慢性合併症は、高血糖が全身の血管や神経を少しずつ傷つけることで、ゆっくりと進行するのが特徴です。 初期段階では自覚症状がほとんどないため、「サイレントキラー(静かな殺し屋)」とも呼ばれます。

気づかないうちに病状が悪化していることも少なくありません。 慢性合併症は、障害される血管の太さによってさらに2種類に分けられます。

細かい血管が傷つく「細小血管症(さいしょうけっかんしょう)」

特に細い血管である毛細血管がダメージを受けることで起こります。 糖尿病の「3大合併症」として知られ、多くの患者さんが悩まされる可能性があります。

合併症の種類 障害される場所 主な症状とリスク
糖尿病性神経障害 全身の神経 手足のしびれ、痛み、感覚の鈍化。立ちくらみや便秘・下痢、ED(勃起不全)など多彩な症状が現れる。
糖尿病網膜症 目の網膜 初期は無症状で進行し、かすみ目や視力低下が現れる。最悪の場合、失明に至るリスクがある。
糖尿病性腎症 腎臓 尿にタンパクが出る、むくみ、だるさ。進行すると腎不全となり、週に数回の人工透析が必要になる。

糖尿病性神経障害は、糖尿病患者さんに最も多く見られる合併症です。 足の裏に紙が貼り付いているような違和感や、正座の後のようなジンジンするしびれから始まることが多いです。

糖尿病の3大合併症についてもっと詳しく

太い血管が詰まる「大血管症(だいけっかんしょう)」

心臓や脳につながる比較的太い血管で動脈硬化が進み、血管が狭くなったり詰まったりして起こります。 命に直結する深刻な病気を引き起こすため、特に注意が必要です。

合併症の種類 障害される場所 主な症状とリスク
虚血性心疾患 心臓の血管 狭心症(胸の圧迫感)や心筋梗塞(激しい胸痛)を起こす。突然死の原因にもなる。
脳血管障害 脳の血管 脳梗塞や脳出血。ろれつが回らない、手足の麻痺などの後遺症が残ることがある。
末梢動脈疾患 足の血管 歩くと足が痛む、足が冷たい。進行すると潰瘍や壊疽(えそ)を起こし、足の切断に至ることもある。

糖尿病が引き起こす大血管症についてもっと詳しく

急性合併症:急激な血糖変動で起こる危険な状態

急性合併症は、血糖値が急激に異常な値になることで突然発症します。 短時間で意識を失ったり、昏睡状態に陥ったりするなど、命の危険がある状態です。 そのため、迅速な救急対応と専門的な治療が不可欠になります。

□高血糖で起こるもの

 ・糖尿病ケトアシドーシス  インスリンが極端に不足し、体が危険な酸性に傾く状態です。特に1型糖尿病の方に多いですが、2型糖尿病でも起こります。

 ・高浸透圧高血糖状態  著しい高血糖と極度の脱水状態に陥ります。特に高齢の2型糖尿病の方に多く見られます。

□低血糖で起こるもの

 ・重症低血糖  血糖降下薬が効きすぎたり、食事を抜いたりすることで血糖値が下がりすぎる状態です。冷や汗や動悸から始まり、けいれんや昏睡に至ることもあります。

合併症が起こるメカニズム:高血糖が全身を傷つける仕組み

では、なぜ高血糖が続くと、これほど多くの合併症が起こるのでしょうか。 その最大の原因は、血液中の過剰なブドウ糖が全身の血管や神経にダメージを与えることにあります。

血液中のブドウ糖は、血管の壁を作っているタンパク質と結びつき、「糖化」という反応を起こします。 これは、パンを焼くとこんがり茶色くなるのと同じような反応です。 この糖化によって「終末糖化産物(AGEs)」という老化物質が作られます。

AGEsが血管の壁に蓄積すると、血管は弾力性を失って硬く、もろくなってしまいます。 これが「動脈硬化」の正体です。 ホースが古くなると硬くなってひび割れるのをイメージすると分かりやすいかもしれません。

特に、網膜腎臓神経に栄養を送っている毛細血管は非常に細く繊細です。 そのため、高血糖によるダメージを最初に受けやすい場所となります。

  • 網膜や腎臓 :毛細血管が密集している臓器のため、血流が悪化すると機能が直接低下します。
  • 神経 :全身に張り巡らされた神経も、毛細血管から栄養を受け取っています。血流が悪くなると神経細胞が栄養不足に陥り、正常に機能しなくなります。

このように、高血糖は全身の血管、特に細い血管からダメージを与え始めます。 そして、時間をかけて様々な合併症を引き起こすのです。

血糖コントロールが合併症予防の鍵となる理由

これまで見てきたように、糖尿病合併症の根本的な原因は「高血糖」です。 したがって、合併症を予防し、進行を食い止める最も重要な方法は、「良好な血糖コントロール」に尽きます。

多くの研究により、血糖コントロールを厳格に行うことで、合併症のリスクを大幅に下げられることが科学的に証明されています。 例えば、1型糖尿病の研究では、厳格な血糖コントロールによって神経障害の発症を約60%も抑制できたと報告されています。

また、糖尿病と診断された早期から血糖値を良好に保つことのメリットは、将来にわたって持続します。 これを「レガシーエフェクト」や「メタボリックメモリー」と呼びます。 若い頃からの良い生活習慣が、将来の健康という財産につながる「健康の貯金」のようなものです。

合併症予防のための血糖コントロールの目標値は、患者さん一人ひとりの状態によって異なりますが、一般的には以下の数値が目安とされています。

検査項目 目標値(合併症予防のため)
HbA1c(ヘモグロビンA1c)
(過去1~2ヶ月の血糖の平均値)
7.0%未満
食前血糖値 80~130mg/dL
食後2時間血糖値 180mg/dL未満

これらの目標を達成し、維持していくことが、合併症のない健康な生活を送るための鍵です。 ご自身の目標値については、自己判断せず、是非一度ご相談ください。

失明や透析に繋がる3つの細小血管症(3大合併症)

糖尿病の合併症の中でも、特に頻度が高く、生活に大きな影響を与えるのが「三大合併症」です。 これは、高血糖によって全身の細い血管(細小血管)が傷つくことで引き起こされます。

具体的には、以下の3つの病気を指し、それぞれの頭文字をとって「しめじ」と覚えることもあります。

  • し:神経障害(しんけいしょうがい)
  • め:網膜症(もうまくしょう)…目の合併症
  • じ:腎症(じんしょう)

これらの合併症の最も恐ろしい点は、初期段階ではほとんど自覚症状がないことです。 気づかないうちに静かに進行し、ある日突然、生活を一変させるほどの症状が現れるため、「サイレントキラー」とも呼ばれています。

しかし、これらの合併症は仕組みを正しく理解し、早期から対策をすれば、発症や進行を十分に防ぐことが可能です。 ご自身の体を守るために、一つずつ詳しく見ていきましょう。

糖尿病性神経障害:足のしびれや痛み、感覚が鈍くなる症状

糖尿病の合併症の中で最も早く、そして最も多くの方に現れるのが神経障害です。 高血糖により、神経細胞そのものや、神経に栄養を送る細い血管がダメージを受けて発症します。 全身の神経が影響を受けるため、非常に多彩な症状が現れるのが特徴です。

神経障害主な症状のチェックリスト

神経障害は、手足の感覚や動きに関わる「末梢神経障害」と、内臓の働きを調整する「自律神経障害」に大別されます。

【末梢神経障害のサイン】

 □ 足の裏や指先がジンジン、ピリピリとしびれる
 □ 足の裏に一枚紙が貼り付いているような違和感がある
 □ 手足の感覚が鈍く、熱さや冷たさを感じにくい
 □ こむら返りが頻繁に起こる
 □ 砂利の上を歩いているような感覚がある

【自律神経障害のサイン】

 □ 立ち上がったときにめまいや立ちくらみがする(起立性低血圧)
 □ 便秘や下痢を繰り返す
 □ 食後に胃がもたれる、吐き気がする
 □ 尿の出が悪い、残尿感がある
 □ 勃起障害(ED)
 □ 異常な発汗または汗をかきにくい

足のケア(フットケア)の重要性

特に注意が必要なのが、足の感覚が鈍くなることです。 靴ずれや小さな切り傷、やけどなどに気づかず放置すると、細菌が侵入して重症化し、潰瘍や壊疽(えそ)へと進行する危険があります。 最悪の場合、足を切断しなければならないこともあり、これを防ぐための毎日の足の観察(フットケア)が極めて重要です。

研究では、厳格な血糖コントロールが神経障害の発症を大幅に抑制することがわかっています(1型糖尿病では約60%抑制)。 つらい痛みに対しては、様々な薬で症状を和らげる治療も行われます。気になる症状があれば、放置せずに必ずご相談ください。

糖尿病網膜症:目のかすみ・視力低下から失明のリスク

糖尿病網膜症は、目の奥にある光を感じるスクリーン部分「網膜(もうまく)」の、非常に細い血管が傷つく病気です。 現在、日本における成人の失明原因の上位を占めており、決して軽視できない合併症です。

主な症状

この病気の最大の注意点は、かなり進行するまで自覚症状がほとんどないことです。 症状が現れたときには、すでに深刻な状態になっているケースも少なくありません。

  • 目のかすみ(視界が霧がかったように見える)
  • 視力の低下
  • 黒い点やゴミのようなものが飛んで見える(飛蚊症)
  • ものが歪んで見える
進行の段階と治療

網膜症は、進行度に応じて治療法が異なります。 進行を食い止める基本は、厳格な血糖コントロールと血圧コントロールです。

進行段階 網膜の状態 主な治療法
単純網膜症 血管に小さなこぶ(毛細血管瘤)ができたり、点状の出血が見られたりする初期段階。自覚症状はほぼありません。 血糖・血圧・脂質の厳格な管理
増殖前網膜症 血管が詰まり始め、網膜の血流が悪くなる段階。酸素不足に陥った網膜から、危険なサインが出始めます。 血糖・血圧・脂質の厳格な管理
増殖網膜症 酸素不足を補うため、もろくて破れやすい「新生血管」という異常な血管が生えてくる段階。大出血や網膜剥離を起こし、失明の危険性が非常に高まります。 ・レーザー光凝固術
・抗VEGF薬の眼内注射
・硝子体手術

自覚症状がないまま進行するため、糖尿病と診断された方は、見え方に変化がなくても必ず定期的に眼科を受診し、眼底検査を受けることが不可欠です。 早期発見・早期治療が、あなたの視力を守るための最も確実な方法です。

糖尿病性腎症:むくみ・だるさがサイン、進行すると人工透析へ

糖尿病性腎症は、腎臓の中にある毛細血管の塊(糸球体)が傷つき、腎臓の機能が低下していく病気です。 腎臓は、血液をろ過して老廃物を尿として排出する「体内の高性能フィルター」の役割を担っています。

このフィルターが壊れると、体に必要なタンパク質が尿に漏れ出てしまい、最終的には老廃物を排出できなくなってしまいます。

主な症状

腎症も初期には自覚症状が全くありません。 進行すると、フィルター機能の低下により以下のようなサインが現れます。

  • 足や顔のむくみ
  • 体がだるい、疲れやすい
  • 貧血(顔色が悪い)
  • 食欲不振、吐き気
  • 息切れ
早期発見と治療の重要性

腎症の怖いところは、一度失われた腎臓の機能を元に戻すことが非常に難しい点です。 そのため、いかに早く異常を見つけ、治療を開始するかが予後を大きく左右します。

早期発見の鍵は、定期的な尿検査と血液検査です。 尿検査では「アルブミン」というタンパク質を測定し、ごく初期の腎臓のダメージを捉えます。

最近では、アルブミン尿がなくても腎機能が低下するケースがあることもわかってきました。 これらを包括して「糖尿病関連腎臓病(DKD)」という概念が提唱されており、尿検査だけでなく、血液検査で腎機能(eGFR)を定期的に確認することが重要です。

治療では、血糖や血圧の管理に加え、腎臓を保護する作用のある血圧の薬(ACE阻害薬、ARBなど)が使われます。 近年では、SGLT2阻害薬GLP-1受容体作動薬といった血糖値を下げる薬の一部に、強力な腎臓保護効果があることが証明され、治療は大きく進歩しています。

腎機能の低下が末期まで進行すると腎不全となり、週に数回の人工透析腎移植が必要になります。

命を脅かす3つの大血管症|動脈硬化が引き起こす病気

細い血管が傷つく細小血管症と並行して、糖尿病では太い血管にも注意が必要です。 心臓や脳、足といった生命維持に不可欠な臓器へ血液を送る太い動脈が、硬くもろくなる「動脈硬化」によって引き起こされる合併症を「大血管症」と呼びます。

高血糖は血管の壁を傷つけ、動脈硬化の進行を著しく加速させます。 古くなったゴムホースが弾力性を失い、ひび割れてしまう状態をイメージすると分かりやすいでしょう。

重要なのは、糖尿病だけで動脈硬化が進むわけではないという点です。 高血圧症脂質異常症(悪玉コレステロールが高いなど)、喫煙肥満といった他の危険因子が加わることで、血管へのダメージは相乗的に増大します。

そのため、大血管症の予防には血糖値だけでなく、血圧やコレステロール値なども含めた「包括的なリスク管理」が不可欠です。

虚血性心疾患:心筋梗塞や狭心症による突然の胸痛

虚血性心疾患とは、心臓の筋肉(心筋)に栄養を送る「冠動脈」という血管が動脈硬化で狭くなり、血液の流れが悪くなることで起こる病気の総称です。 主に「狭心症」と「心筋梗塞」の2つがあります。

病名 血管の状態 主な症状
狭心症 血管が狭くなっている状態。
運動時など心臓に負担がかかると、一時的に血流が不足する。
・階段を上る、重い物を持つなどの労作時に出現
・胸が締め付けられる、押さえつけられるような圧迫感
・通常は数分~15分程度で治まる
心筋梗塞 血管が完全に詰まってしまった状態。
血流が途絶え、心筋が壊死(えし)してしまう。
・突然の激しい胸痛が30分以上続く
・冷や汗、吐き気、呼吸困難を伴うことがある
・命に関わるため、一刻も早い救急要請が必要

特に糖尿病患者さんで注意が必要なのは「無痛性心筋梗塞」です。 神経障害の影響で心臓の痛みを感じる神経が鈍くなり、典型的な激しい胸痛が現れません。 代わりに、胃の不快感や吐き気、息切れといった症状だけが現れるため、心筋梗塞と気づかずに対応が遅れてしまう危険があります。

予防には、血糖・血圧・脂質の厳格な管理が基本です。 近年では、一部の糖尿病治療薬SGLT2阻害薬GLP-1受容体作動薬)が、心筋梗塞や心不全のリスクを低下させる「心臓保護効果」を持つことが多くの研究で証明されており、治療の選択肢は大きく広がっています。

脳血管障害:脳梗塞による麻痺や言語障害

脳血管障害は、脳の血管が詰まる「脳梗塞」や、破れる「脳出血」などを含みます。 統計的に、糖尿病の患者さんはそうでない方と比べて、脳梗塞を発症するリスクが2〜4倍高いことがわかっています。

脳梗塞は、動脈硬化によって脳の血管が詰まり、脳細胞に酸素や栄養が届かなくなる病気です。 脳細胞は一度ダメージを受けると再生が難しく、体の麻痺や言語障害などの後遺症が残ることも少なくありません。

そのため、一刻も早い発見と治療開始が予後を大きく左右します。 ご自身や周りの人に以下のサインが見られたら、脳梗塞の可能性があります。 「FAST」という言葉で覚えておきましょう。

チェック項目 確認すること
F (Face) 顔 「イー」っと笑った時に、顔の片側がゆがんでいないか。
A (Arm) 腕 両腕を水平に上げた時、片方の腕だけが力なく落ちてこないか。
S (Speech) 言葉 「今日は天気が良い」など、短い言葉がろれつが回らず言いにくくないか。
T (Time) 時間 症状に一つでも当てはまれば、発症時刻を確認し、ためらわずに救急車を呼ぶ

末梢動脈疾患(PAD):歩行時の足の痛みや冷え、足の切断リスク

末梢動脈疾患(PAD)は、主に足に血液を送る動脈が硬化し、血流が悪くなる病気です。 初期には症状がないことも多いですが、進行すると特徴的なサインが現れます。

【PADの主な症状】

  • 間歇性跛行(かんけつせいはこう):一定の距離を歩くと、ふくらはぎなどが締め付けられるように痛くなり、歩けなくなる。少し休むと痛みが和らぎ、また歩けるようになる、という症状を繰り返します。
  • 足の冷えやしびれ
  • 安静時の痛み(重症になると、寝ている時など安静時にも足が痛む)
  • 足の色が悪い(白っぽくなる、紫色になる)

糖尿病の患者さんでは、このPADに「神経障害」が合併すると非常に危険な状態になります。

 ① 神経障害で足の感覚が鈍くなる
 ② 靴ずれやタコ、小さな傷に気づかない
 ③ PADで血流が悪いため、傷が治りにくい
 ④ 傷口から細菌が侵入し、潰瘍や壊疽(えそ)に進行する

この悪循環により、最悪の場合は足の切断に至るケースが後を絶ちません。 これを防ぐには、毎日自分の足を観察する「フットケアと、定期的な検査が不可欠です。 PADは、両腕と両足首の血圧を測定するだけの簡単な「ABI検査」で早期発見が可能です。 足の冷えやしびれ、歩行時の痛みなどを感じたら、放置せずにご相談ください。

見落とされがちな4つの合併症|歯周病や認知症との関連

糖尿病の合併症は、失明や透析、足の切断といった深刻なものだけではありません。 実は、全身に影響が及ぶため、これまで紹介した合併症以外にも注意すべき病気があります。

ここでは、見過ごされがちでありながら、生活の質(QOL)に大きく関わる4つの合併症を解説します。 一見すると糖尿病とは無関係に思えるかもしれませんが、高血糖と深く結びついています。

  • 歯周病
  • 感染症
  • 認知機能の低下
  • 骨粗しょう症

これらの関係性を理解し、早期から対策することが、健やかな毎日を守るために重要です。

歯周病:糖尿病と相互に悪化させる口の中の問題

糖尿病と歯周病は、互いに悪影響を及ぼしあう「負の相関関係」にあることがわかっています。 まるでシーソーのように、一方が悪くなるともう一方も悪くなる、という悪循環に陥りやすいのです。

糖尿病が歯周病を悪化させる仕組み

高血糖の状態が続くと、お口の中の環境も悪化し、歯周病菌が繁殖しやすくなります。

  • 免疫力の低下 :高血糖は、細菌と戦う白血球の働きを弱めます。体の防御機能が低下し、歯周病菌に抵抗できなくなります。
  • 血流の悪化 :歯ぐきを通る細い血管の血流が悪くなります。これにより、組織の修復力が落ち、炎症が治りにくくなります。
  • 唾液の減少と糖分増加高血糖による脱水で口が乾きやすくなります。さらに唾液中の糖分が増え、細菌にとって格好の栄養源となります。
歯周病が糖尿病を悪化させる仕組み

逆に、歯周病があることで血糖コントロールが乱れることも科学的に証明されています。

歯周病は、歯周病菌によって引き起こされる慢性的な炎症です。 この炎症によって生み出される「炎症性サイトカイン」という物質が血流に乗って全身を巡ります。 そして、血糖値を下げる唯一のホルモンである「インスリン」の働きを邪魔してしまうのです。

この状態を「インスリン抵抗性」と呼び、血糖値が下がりにくくなる直接的な原因となります。

糖尿病が歯周病を悪化させる 歯周病が糖尿病を悪化させる
① 免疫力の低下
② 歯ぐきの血流悪化
③ 唾液の減少
① 歯周病による炎症
② 炎症性物質が全身へ
③ インスリンの働きを妨害(インスリン抵抗性)

複数の信頼性の高い研究を統合したメタ解析では、2型糖尿病の方が歯周病治療を受けると、HbA1cが平均で約0.5%低下したと報告されています。 これは、糖尿病治療薬を1種類追加するのに匹敵するほどの改善効果です。

定期的な歯科検診と適切な口腔ケアは、糖尿病治療の重要な柱の一つと言えます。

感染症:治りにくい皮膚炎や尿路感染症

糖尿病の患者さんは、様々な感染症にかかりやすく、一度かかると重症化しやすい傾向があります。 風邪やインフルエンザはもちろん、皮膚や尿路の感染症にも特に注意が必要です。

感染症にかかりやすくなる3つの理由
  1. 免疫機能の低下  血糖値が200mg/dL以上の状態が続くと、細菌などを攻撃する白血球(好中球)の働きが著しく低下します。これにより、体内に侵入した病原体を十分に排除できなくなります
  2. 血流障害  動脈硬化で血流が悪くなると、体の隅々まで酸素や栄養、そして免疫細胞が届きにくくなります。特に足先は血流が悪化しやすく、小さな傷から細菌が侵入し、重症化(足壊疽)することもあります。
  3. 神経障害  糖尿病性神経障害で痛みや熱さを感じる感覚が鈍くなると、ケガや火傷に気づきにくくなります。発見が遅れることで、傷口から細菌が入り、感染が広がる原因となります。
注意すべき主な感染症 特徴
皮膚感染症 水虫(足白癬)、おでき(癤)、蜂窩織炎(ほうかしきえん)など。治りにくく、重症化しやすい。
尿路感染症 膀胱炎、腎盂腎炎(じんうじんえん)。神経障害で残尿があると、膀胱内で細菌が繁殖しやすくなる。
呼吸器感染症 肺炎、インフルエンザ、結核など。重症化するリスクが高いため、ワクチン接種が推奨される。
歯周病 口の中の細菌感染症。糖尿病を悪化させる原因にもなる。

日頃から血糖コントロールを良好に保つことが最大の予防策です。 それに加え、手洗いやうがい、皮膚を清潔に保つこと、毎日足の状態を観察する「フットケア」が非常に重要です。

認知機能の低下:物忘れが増えるリスク

近年、糖尿病が認知症の発症リスクを高めることが、多くの研究で明らかになってきました。 特に、アルツハイマー型認知症と血管性認知症の両方との関連が指摘されています。

糖尿病が認知機能に影響を与えるメカニズム
  • 脳の血管障害  高血糖による動脈硬化は、脳の細い血管にも起こります。脳の血流が悪くなると脳細胞が栄養不足に陥り、脳の機能が低下します。これが血管性認知症のリスクを高めます。
  • インスリンの作用低下  脳内でインスリンが正常に働かなくなると、アルツハイマー型認知症の原因物質「アミロイドβ」が溜まりやすくなると考えられています。
  • 高血糖と低血糖の繰り返し  血糖値が極端に高い状態や、逆に低くなりすぎる「重症低血糖」を繰り返すと、脳の神経細胞に直接ダメージを与え、認知機能の低下につながる可能性があります。

認知機能の低下は、ご自身の血糖管理を難しくさせるという深刻な問題も引き起こします。 例えば、薬の飲み忘れインスリン注射の時間を間違えるなど、治療に支障をきたし、さらに血糖コントロールが悪化するという悪循環に陥る危険があります。

認知症予防の観点からも、血糖コントロールは非常に重要です。 さらに、血圧や脂質の管理、禁煙、定期的な運動といった総合的な生活習慣の改善を心がけましょう。

骨粗しょう症:骨がもろくなり骨折しやすくなる

「糖尿病で骨がもろくなる」と聞いても、ピンとこない方が多いかもしれません。 しかし、糖尿病の方は骨密度(骨の量)が正常でも、骨の「質」が悪化し、骨折しやすくなることがわかっています。

糖尿病で骨がもろくなる理由
  • 骨質の劣化(糖化):高血糖が続くと、骨のしなやかさを保つ主成分「コラーゲン」が糖と結びつき、「糖化」という反応を起こします。これは、パンを焼くと茶色く硬くなるのと同じ現象です。糖化したコラーゲンは骨の弾力性を失わせ、もろく折れやすい状態にしてしまいます。
  • 骨を作る細胞の機能低下:インスリンは骨を作る細胞(骨芽細胞)の働きにも関わっています。インスリンの作用が不足すると、新しい骨が作られにくくなり、骨が弱くなります。

ある研究では、HbA1cが7.5%以上の2型糖尿病患者さんでは、骨折のリスクが1.47倍に高まるというデータもあります。

さらに、合併症である神経障害によるふらつきや、網膜症による視力低下は転倒のリスクを高めます。 つまり、糖尿病は「骨を弱くする」と同時に「転倒しやすくする」という二重のリスクを抱えているのです。

足の付け根や背骨の骨折は、寝たきりの原因にもなりかねません。 良好な血糖コントロールとともに、食事でカルシウムやビタミンDを意識的に摂取し、ウォーキングなど骨に負荷のかかる運動を習慣にすることが大切です。

緊急対応が必須な急性合併症3選

糖尿病の合併症には、静かに進行する慢性合併症だけでなく、突発的に命を脅かす「急性合併症」があります。 これは、血糖値が数時間から数日の間に急激に変動することで起こる危険な状態です。

迅速で適切な対応ができなければ、意識を失ったり、命を落としたりすることもあります。 ご自身や大切なご家族を守るため、どのような症状が危険なサインなのかを正しく理解し、いざという時に落ち着いて行動できるようにしましょう。

糖尿病ケトアシドーシス(DKA):吐き気や意識障害を伴う危険な状態

糖尿病ケトアシドーシス(DKA)は、体を動かすエネルギーであるインスリンが極端に不足することで起こる、命に関わる緊急事態です。

インスリンが足りないと、血液中のブドウ糖を細胞がエネルギーとして利用できません。 そのため、体は代わりに脂肪を分解してエネルギーを作ろうとします。 その際に「ケトン体」という酸性の副産物が血液中に大量に作られ、血液全体が危険な酸性に傾いてしまうのです(アシドーシス)。

特に注意が必要な人・状況
  • インスリン治療の中断・不足  特に1型糖尿病の方が、自己判断でインスリン注射をやめてしまった場合に起こりやすいです。
  • 感染症や他の病気(シックデイ)  発熱や下痢、嘔吐などで体調を崩すと、体はストレスに対抗するため血糖値を上げるホルモンを分泌し、インスリンが不足しがちになります。
  • 清涼飲料水の多量摂取  糖分を多く含むジュースやスポーツドリンクを大量に飲むことで、血糖値が急激に上昇し、発症することがあります(ペットボトル症候群)。
  • 一部の糖尿病治療薬の服用  SGLT2阻害薬という種類の薬を服用している場合、血糖値がそれほど高くなくてもDKAを発症することがあり(正常血糖ケトアシドーシス)、注意が必要です。
危険な症状のチェックリスト

初期症状はただの体調不良と見分けがつきにくいですが、進行すると特徴的なサインが現れます。

進行段階 主な症状
初期症状 ・ひどい口の渇き、大量の水を飲む、尿の回数や量が多い
・原因不明の全身のだるさ、倦怠感
進行した症状 ・吐き気、嘔吐、激しい腹痛
緊急事態のサイン ・深く大きな呼吸(クスマウル呼吸)
・息が甘酸っぱい匂い(アセトン臭)がする
・意識がもうろうとする、呼びかけへの反応が鈍い

これらの症状が一つでも見られたら、命に関わる緊急事態です。 すぐに医療機関を受診してください。

高浸透圧高血糖状態(HHS):極度の高血糖と脱水

高浸透圧高血糖状態(HHS)は、血糖値が600mg/dLを超えるなど極端に高くなり、体が深刻な脱水状態に陥る病気です。

血糖値が異常に高くなると、血液の濃度(浸透圧)が急上昇します。 すると、体は薄めようとして尿から大量の水分を排出し、極度の脱水を引き起こします。 これにより、意識障害やけいれんなどを起こし、非常に危険な状態に陥ります。

特に注意が必要な人・状況

高齢の2型糖尿病患者さんに多く見られます。 DKAと異なり、吐き気や腹痛といった症状が少ないため、発見が遅れがちな点が特徴です。

  • 肺炎や尿路感染症などの感染症
  • 水分摂取の不足(特に夏場や発熱時、喉の渇きを感じにくい高齢者)
  • 脳卒中や心筋梗塞など、他の重篤な病気の発症
  • 糖尿病治療の中断
危険な症状のチェックリスト

ご家族や周りの方が、いつもと違う様子に気づくことが早期発見の鍵です。

  • □ 極度の口の渇き、皮膚や脇の下、口の中がカサカサに乾いている
  • □ 尿の量が極端に減る、または出なくなる
  • □ 体の動きが鈍くなり、ぐったりしている
  • □ 呼びかけへの反応がはっきりしない、昏睡状態
  • □ けいれんを起こす

特にご高齢の方で、ぐったりして反応がいつもと違う場合はHHSを疑い、直ちに救急車を呼んでください。

重症低血糖:冷や汗やけいれん、昏睡に至ることも

低血糖とは、インスリンや血糖降下薬が効きすぎて、血糖値が正常範囲を下回る状態(目安として70mg/dL未満)です。 その中でも、自分自身でブドウ糖を補給できず、他人の助けが必要になる状態を「重症低血糖」と呼びます。

放置するとけいれんや昏睡に至り、脳に後遺症が残る可能性もあるため、迅速な対応が不可欠です。

原因と注意点
  • インスリン注射や血糖降下薬の量が多すぎた
  • 食事を抜いた、または食事の量が少なかった
  • 予定外の激しい運動をした
  • 空腹の状態でアルコールを摂取した

特に注意したいのが「無自覚性低血糖」です。 低血糖を繰り返していると、体が慣れてしまい、冷や汗や動悸といった初期の警告サインを感じにくくなることがあります。 これにより、気づかないうちに意識を失い、重大な事故につながる危険があります。

症状の進行と対処法

低血糖の症状は段階的に現れます。どの段階で気づき、対処できるかが重要です。

段階 主な症状
初期症状
(警告サイン)
強い空腹感、冷や汗、動悸、手足のふるえ、不安感
進行した症状
(脳のエネルギー不足)
頭痛、めまい、目のかすみ、生あくび、集中力の低下
重症時の症状
(危険な状態)
ろれつが回らない、異常な行動、けいれん、意識消失

対処法として、
意識がある場合
 すぐにブドウ糖や砂糖(10~20gが目安)ブドウ糖を含むジュース(150~200mLが目安)などを摂取します。もし症状が改善しない場合はさらに糖分を摂取してください
意識がない場合
 無理に口から飲ませると窒息の危険があります。すぐに救急車を呼びましょう。
 また口から飲むことができない場合、ご家族や周りの方が打つ注射(処方薬)があります。

合併症を早期発見・予防するための重要な検査5項目

糖尿病の合併症は、自覚症状がないまま静かに進行することが多く、「気づいたときには手遅れだった」という事態を避けなければなりません。しかし、定期的に適切な検査を受けることで、併症の小さな芽を早期に発見し、進行を食い止めることが可能です。

これからご紹介する各種検査は、ご自身の体を守るための大切な「道しるべ」です。なぜこれらの検査が重要なのかを読み解いていきましょう。

HbA1c(ヘモグロビンA1c):過去1~2ヶ月の血糖コントロール指標

HbA1c(ヘモグロビン・エーワンシー)は、採血した時点から過去1〜2ヶ月間の血糖値の平均点を表す重要な指標です。健康診断などで測定する血糖値が「その瞬間の」というスナップショットであるのに対し、HbA1cは長期的な血糖コントロールの状態を把握するための「通信簿」のような役割を果たします。

高血糖の状態が続くと、血液中のブドウ糖が赤血球の中にあるヘモグロビンというタンパク質と結合します。HbA1cは、このブドウ糖と結合したヘモグロビンの割合を示したものです。この数値を見ることで、日々の食事や運動療法、薬物療法がうまくいっているかを客観的に評価できます。

HbA1cが重要な3つの理由
  • 長期的な視点での評価  食事の直後など、一時的な血糖値の変動に左右されず、安定したコントロール状態を把握できます。
  • 合併症リスクとの明確な関連  HbA1cの値を良好に保つことは、合併症の予防に直結します。適切な血糖コントロールが様々な糖尿病合併症の発症を抑制したという研究結果が示されています。
  • 治療方針決定の羅針盤  医師はこの数値を参考に、お薬の種類や量を調整したり、生活習慣の改善点をアドバイスしたりします。

一般的な合併症予防の目標値は7.0%未満とされていますが、年齢や他の病気の有無、低血糖のリスクなどを考慮して個別の目標値が設定されます。定期的にこの数値をチェックし、ご自身のコントロール状態を把握することが合併症予防の第一歩です。

定期的な眼底検査:網膜症の早期発見に不可欠


糖尿病網膜症は、成人の失明原因の上位を占める深刻な合併症です。しかし、初期段階ではほとんど自覚症状がありません。「目のかすみ」や「視力低下」などを感じたときには、すでにかなり進行しているケースが多く見られます。だからこそ、症状がなくても定期的に眼科で「眼底検査」を受けることが極めて重要です。

眼底検査とは、瞳孔(ひとみ)から眼の奥にある網膜という光を感じる膜を直接観察し、眼の血管の状態を調べる検査です。網膜は、全身で唯一、血管を直接のぞき込むことができる「窓」であり、全身の血管の状態を推測する貴重な手がかりとなります。

眼底検査でわかること
  • 血管の小さなこぶ(毛細血管瘤)
  • 点状・斑状の出血
  • 血液成分の漏れ(硬性白斑)
  • 血管の詰まりによる血流不足のサイン
  • 異常で脆い血管の発生(新生血管)

自覚症状に乏しい糖尿病網膜症の早期発見と進行を防ぐため、定期的な眼科受診が強く推奨されています。糖尿病と診断されたら、少なくとも年に1回は眼科を受診しましょう。網膜症が見つかった場合は、進行度に応じて検査の頻度を増やす必要があります。

さらに重要な点として、網膜症の存在が、心筋梗塞や脳卒中といった大血管症のリスクを高めることも示されています。目の検査は、あなたの視力だけでなく、命を守ることにも繋がるのです。

尿中アルブミン検査:腎症の初期症状を見つける

糖尿病性腎症も、初期には全く自覚症状が現れない合併症です。腎臓は、血液をろ過して老廃物を尿として排出する「体内の超高性能フィルター」の役割を担っています。高血糖が続くと、このフィルターの網目が傷つき、本来は体内に残るはずのアルブミンというタンパク質がごく微量、尿中に漏れ出てきます

この非常に早い段階の変化、つまり「フィルターの最初のほころび」を捉えるのが「尿中アルブミン検査」です。「むくみ」や「だるさ」といった症状が出る頃には腎症はかなり進行しており、一度失われた腎機能を取り戻すことは困難です。

尿中アルブミン検査が命綱となる理由
  • 最も早い段階での発見  通常の尿タンパク検査で陽性になるよりも、ずっと早い腎症の初期段階を発見できます
  • 治療介入のタイミング  早期の段階で厳格な血糖・血圧管理や薬物療法を始めれば、腎機能の悪化を大幅に遅らせることが期待できます。

採尿だけで調べられる簡単な検査が、あなたの腎臓を人工透析から守るための重要な鍵となります。

※新しい疾患概念として、
近年、アルブミン尿がなくても腎機能が低下するケースがあることがわかり、「糖尿病関連腎臓病(DKD)」という概念が提唱されています。尿検査と併せて、血液検査で腎機能(クレアチニン、eGFR)を確認することも重要です。

足のチェック(フットケア):潰瘍や壊疽を防ぐための自己観察

これは検査というよりも、ご自身が主治医となって毎日行うべき大切な「習慣」です。糖尿病性神経障害が進行すると、足の感覚が鈍くなり、痛みや熱さを感じにくくなります。そのため、靴ずれや小さな切り傷、やけどに気づかず放置してしまいがちです。

さらに、高血糖の状態では免疫力が低下し、傷が治りにくくなるため、わずかな傷から細菌が侵入し、組織が死んでしまう「壊疽(えそ)」へと進行する危険があります。

【今日から始める】毎日のフットケア チェックリスト
 ・足全体をよく見る:足の裏や指の間など、見えにくい場所は鏡を使って確認しましょう。
 ・傷や水ぶくれ、色の変化はないか:赤み、腫れ、ただれがないかチェックします。
 ・タコやウオノメはないか:硬くなっている部分がないか確認します。自分で削らず、医師に相談しましょう。
 ・乾燥やひび割れはないか:足を洗った後はよく乾かし、保湿クリームを塗りましょう。
 ・爪の状態は良いか:爪はまっすぐ四角く(スクエアカット)切り、深爪をしないようにしましょう。

糖尿病性神経障害の評価には、自覚症状の聴取や知覚機能の評価が重要とされています。日々の足のチェックは、感覚の変化を早期に捉え、医師に正確な情報を伝えるためにも役立ちます。

血圧・脂質検査:動脈硬化のリスク管理

糖尿病の管理は、血糖値だけの問題ではありません。高血圧症脂質異常症(悪玉コレステロールや中性脂肪が高い状態)を合併しやすく、これらが組み合わさることで、血管の壁が硬く、もろくなる「動脈硬化」が急速に進行します。

動脈硬化は、心筋梗塞や脳梗塞といった命に直結する「大血管症」の直接的な原因です。細い血管の合併症だけでなく、太い血管を守るためにも、血圧と脂質の管理が不可欠です。

検査項目 目標値の目安 なぜ重要か
血圧 130/80 mmHg 未満 高い圧力がかかり続けると血管が傷つき、動脈硬化が進行する。
LDLコレステロール
(悪玉コレステロール)
120 mg/dL 未満 血管の壁にたまり、血管を狭くする「プラーク」の主成分となる。
HDLコレステロール
(善玉コレステロール)
40 mg/dL 以上 余分なコレステロールを回収し、動脈硬化を防ぐ働きがある。
中性脂肪 150 mg/dL 未満 過剰になると、小型で悪玉化しやすいLDLコレステロールを増やす。

血糖コントロールと合わせて血圧・脂質を管理する「包括的リスク管理」が、全身の血管を守り、健康寿命を延ばすために非常に重要です。

まとめ

今回は、糖尿病が引き起こす様々な合併症について、その種類から対策まで詳しくご紹介しました。

目や腎臓、足の神経といった細い血管の障害から、心筋梗塞や脳梗塞のような命に関わる病気まで、合併症は多岐にわたります

しかし、合併症は決して避けられないものではありません。その発症や進行を防ぐ鍵は、日々の良好な血糖コントロールと、定期的な検査による早期発見です。

自覚症状がなくても年に一度は眼科を受診する毎日ご自身の足を観察するなど、今日から始められることがたくさんあります。不安なことや気になる症状があれば、一人で抱え込まず、いつでも横浜市鶴見区の渡辺医院までご相談してみてください。糖尿病専門医である副院長が、いつでも皆様の疑問や不安にお答え致します。

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監修者

渡辺医院 副院長 
渡辺 雄祐(Yusuke Watanabe)

日本内科学会 総合内科専門医/日本糖尿病学会 糖尿病専門医

横浜市鶴見区出身。慶應義塾大学医学部卒業後、東京都済生会中央病院慶應義塾大学病院川崎市立川崎病院で内科、糖尿病診療の経験を積む。
現在は生まれ育った横浜市鶴見区の渡辺医院で地元に密着した医療を提供するべく、糖尿病・高血圧症・脂質異常症・肥満症などの生活習慣病や、甲状腺疾患・一般内科を中心に幅広く診療。患者さん一人ひとりに丁寧に向き合う医療を心がけている。

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