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糖尿病の治療(食事・運動編)

このページでは、糖尿病の治療のうち、食事療法・運動療法について解説致します。

当院での糖尿病診療に対する考え方については「糖尿病診療」のページをご覧ください。
・糖尿病の薬物療法については、「糖尿病の治療(薬物療法編)」のページをご覧ください。

糖尿病と診断され、戸惑いや不安を感じていませんか?
しかし、適切に病気と向き合い、治療を続けることで、多くの方が健康な生活を長く維持できます。糖尿病治療の最終目標は、単に検査値を正常にするだけでなく、糖尿病がない方と同等に「健康寿命」を維持し、失明や透析、足の切断、さらには心筋梗塞や脳卒中といった深刻な合併症を防ぐことです。

その達成には、食事療法運動療法薬物療法の3つの柱が不可欠です。このページでは、それぞれの治療法の基本と実践のコツ、そして薬の種類や低血糖への対処法まで、糖尿病専門医が詳しく解説して参ります。

糖尿病治療の基本目標と3つの柱

ここでは、糖尿病治療の大きな目標と、その達成に向けた3つの大切な柱について、分かりやすく解説していきます。

糖尿病治療の最終目標とは?健康寿命の維持と合併症予防

糖尿病の治療は、単に検査値を正常にするだけが目的ではありません。最も大切な目標は、糖尿病がない方と同等に、長く健康な生活を送ること、つまり「健康寿命(けんこうじゅみょう)」を維持することです。健康寿命とは、心身ともに健康で、人の助けを借りずに日常生活を送れる期間を指します。この健康寿命を保つために最も重要なのが、糖尿病によるさまざまな合併症を防ぐことです。

糖尿病の合併症は、主に「細い血管の病気」と「太い血管の病気」の病気に分けられます。高血糖(血液中のブドウ糖が多い状態)が長く続くと、これらの血管が傷つき、以下のような病気を引き起こすことがあります。

  • 糖尿病網膜症(もうまくしょう):目の奥にある網膜の血管が傷つき、視力低下や最悪の場合、失明につながることもあります。
  • 糖尿病性腎症(じんしょう):腎臓の小さな血管が悪くなり、体の老廃物をろ過する機能が低下します。進行すると、人工透析(じんこうとうせき)が必要になることもあります。
  • 糖尿病性神経障害(しんけいしょうがい):手足のしびれや痛み、感覚の麻痺(まひ)を引き起こし、重症化すると足の切断に至るケースもあります。また、自律神経にも影響し、便秘や下痢、立ちくらみなどの症状が出ることもあります。

これらの合併症が進行すると、日常生活に大きな影響を及ぼし、生活の質(QOL=Quality Of Life)が低下してしまいます。QOLとは、私たちがどれだけ充実した日々を送れるか、という指標です。さらに、動脈硬化(どうみゃくこうか)という太い血管の病気が進みやすくなり、心筋梗塞(しんきんこうそく)脳卒中(のうそっちゅう)といった命に関わる病気のリスクも高まります。治療を通して血糖値をしっかり管理し、合併症の発生や悪化を防ぐことが、健康寿命を延ばすための鍵となるのです。

血糖コントロールの重要性:HbA1cの目安

糖尿病治療の中心となるのが「血糖コントロール」です。これは、血液中のブドウ糖(血糖)の値を常に適切な範囲に保つことを意味します。なぜなら、血糖値が高い状態が長く続くと、全身の血管や神経が絶えずダメージを受け、先ほど説明した合併症がゆっくりと進行してしまうためです。

血糖コントロールの状態を判断する上で特に重要な指標の一つに、「HbA1c(ヘモグロビンエーワンシー)」があります。HbA1cは、過去1〜2ヶ月間の血糖値の平均を把握できる優れた指標です。血糖値はその日の食事や運動によって変動しますが、HbA1cは長期的な血糖管理の状態を反映するため、日頃の血糖コントロールがうまくいっているかを確認する上で欠かせません。

合併症を予防するために、「HbA1cはいくつを目指せばいいの?」という疑問に対し、日本糖尿病学会は明確な指標として以下の3つの目標値を提示しています。

  • HbA1c 6.0%未満(血糖正常化を目指す際の目標):低血糖のリスクが低い治療を行っている方が目指す数値です。

  • HbA1c 7.0%未満(合併症予防のための目標)合併症を防ぐための、治療の基本となる重要な目標値です。

  • HbA1c 8.0%未満(治療強化が困難な際の目標)ご高齢の方や低血糖が心配な方など、安全面を第一に考慮した場合の数値です。

学会がこのように複数の基準を設けているのは、患者さん一人ひとりの年齢やライフスタイルによって「最適なゴール」が異なるからです。当院でもこの学会基準をもとに、患者さんの年齢糖尿病の罹病期間合併症の有無、そして低血糖(血糖値が下がりすぎる状態)を起こしやすいかどうかなどを考慮して、患者さんにとって最も安全で無理のない目標を一緒に決めていきます。
特に65歳以上の方については、日本糖尿病学会と日本老年医学会が合同で定めた「高齢者糖尿病の血糖コントロール目標」という別の基準が適用されます。年齢を重ねると、重症低血糖のリスクや、それに伴う合併症の危険性が高まるためです。年齢だけでなく、認知機能や日常生活の自立度(ADL)、使用しているお薬の種類などを総合的に評価し、より細かく目標値を設定します。「数値を下げること」だけでなく、「下げすぎないこと(下限値の設置)」も重視し、安全を最優先とした治療を行います。

食事、運動、薬物療法の3つの基本治療

糖尿病の治療は、主に以下の3つの柱から成り立っています。これらの治療は、互いに連携し合い、それぞれが大切な役割を担っています。

糖尿病治療の3つの柱|横浜市鶴見区|内科、糖尿病内科なら渡辺医院

  1. 食事療法:食事の量や内容を見直し、血糖値が急激に上がらないようにする治療法です。糖尿病食は「特別な食事」ではなく、健康的な食生活そのもの。栄養バランスの取れた食事を適量摂ることが基本です。
  2. 運動療法:体を動かすことで、筋肉がブドウ糖を取り込みやすくなり、血糖値が下がりやすくなります。また、体重管理にもつながり、インスリン(血糖値を下げるホルモン)の効きを良くする効果も期待できます。
  3. 薬物療法:食事療法や運動療法だけでは血糖値のコントロールが難しい場合に、飲み薬注射薬(インスリン製剤、GLP1受容体作動薬、GIP/GLP1受容体作動薬)を使用して血糖値を調整します。薬には様々な種類があり、患者さんの状態に合わせて選択されます。

これらの治療法は、患者さんの糖尿病の種類(1型糖尿病か2型糖尿病か)、体格、インスリンを分泌する能力、ライフスタイルなどに応じて個別に行われます。まずは食事療法と運動療法が治療の土台となり、これらで効果が不十分な場合に薬物療法が加えられることが一般的です。

また糖尿病治療は血糖値の管理だけでなく、体重血圧コレステロールなどの脂質(ししつ)の管理定期的な合併症の状態確認のための検査、そしてフットケア(足の観察と手入れ)も非常に重要な要素です。喫煙は糖尿病合併症のリスクを大幅に高めるため、禁煙も大事な部分です。

糖尿病治療は長期にわたるため、がんばりすぎずに継続することが成功の鍵です。セルフモニタリング(自分で血糖値を測るなどして状態を把握すること)はもちろん、医療チームやご家族など周囲のサポーターとともに、無理なく治療を続けていくことが大切です。

糖尿病の食事療法 ~基本と実践のコツ~

糖尿病と診断されたとき、「食事に厳しい制限があるのではないか」「特別な食事を用意しなければいけないのでは」と、食事に対する不安や戸惑いを抱く方は少なくありません。しかし、糖尿病の食事療法は、決して特殊なものではありません。むしろ、健康な方も実践すべき「健康的でバランスの取れた食事」そのものが基本となります。無理なく、そして美味しく続けられる食事の工夫を知ることで、血糖コントロールを良好に保ち、活動的な毎日を送ることができるでしょう。

糖尿病食は特別な食事ではない 適正エネルギーとバランス

糖尿病の食事療法で最も大切なのは、「何を我慢するか」ばかりに目を向けるのではなく、「どのような食生活を継続していくか」という視点を持つことです。特定の「絶対に食べてはいけないもの」は存在せず、体に必要なエネルギー量を把握し、さまざまな食品をバランス良く食べることが基本となります。これは、糖尿病の有無にかかわらず、誰もが健康を維持するために実践すべき食事のあり方そのものです。

まず、ご自身の1日に必要なエネルギー量を知ることから始めます。これは、現在の体重から理想的な標準体重を算出し、日頃の身体活動量日常生活で体をどれくらい動かすか)を考慮して決まります。
具体的な計算は、以下の3つのステップで行います。

ステップ1:あなたの「目標体重」を計算する

まずは基準となる体重を計算します。近年の糖尿病治療では、一律の「標準体重」ではなく、年齢などに合わせて理想とする「目標体重」を設定するようになりました。

65歳未満の方: 身長(m) × 身長(m) × 22
・65〜74歳の方: 身長(m) × 身長(m) × 22〜25
・75歳以上の方: 身長(m) × 身長(m) × 22〜25
(※計算式の「22〜25」などはBMIと呼ばれる体格指数です。高齢になるほど、極端な痩せを防ぐために少し余裕を持たせた設定の方が健康に良いとされています。)

ステップ2:あなたの「エネルギー係数(身体活動量)」を知る

次に、普段の生活でどれくらい体を動かしているかエネルギー係数)を当てはめます。

軽労作(係数:25〜30): デスクワークが多い、座って行う家事が多いなど
・普通の労作(係数:30〜35): 立ち仕事が多い、営業職、軽いスポーツの習慣があるなど
・重い労作(係数:35〜): 建設作業などの力仕事、活発なスポーツの習慣があるなど

ステップ3:1日の「適正エネルギー量」を計算する

ステップ1で出した「目標体重」と、ステップ2の「エネルギー係数」を掛け合わせます。

 ・1日の適正エネルギー量(kcal) = 目標体重(kg) × エネルギー係数


【さっそく計算してみましょう:自動計算ツール】

ご自身で計算するのは少し手間がかかりますよね。そこで、ご自身の年齢・身長・普段の活動量を入力するだけで、最新のガイドラインに基づいた「目標体重」と「1日の適正エネルギー量の目安」が自動で分かるツールをご用意しました。

以下のフォームに各数値を入力して「計算する」ボタンを押してみてください。

1日の適正エネルギー量 計算ツール

※この計算結果は日本糖尿病学会のガイドラインに基づく一般的な目安です。年齢が65歳以上の方は、フレイル予防の観点から目標体重に幅を持たせています。
※実際の最適なエネルギー量は、現在の体重や基礎疾患、合併症の有無によって異なります。自己判断での極端な食事制限は避け、具体的な食事療法については必ず当院の医師や管理栄養士にご相談ください。

計算結果はいかがでしたか?普段召し上がっている食事のカロリーと比較してみると、「意外と食べられるんだな」「今の自分の食事量は多すぎたかもしれない」など、様々な発見があるかと思います。
ただし、ここで算出された数値はあくまで「一般的な目安」です。 実際の最適なエネルギー量は、現在の体重、血糖値の状態、その他の合併症の有無によって一人ひとり全く異なります。結果を見て「極端に食事を減らす」などの自己判断はせず、まずはこの数値をひとつの基準として知っておくことが大切です。

なお、「自分の正確な適正量を知りたい」「無理のない範囲で食生活を見直したい」という方は、ぜひお気軽に当院へご相談ください。当院ではお忙しい方にも受けて頂きやすいよう、「オンライン栄養指導」を導入しております。患者様それぞれのライフスタイルに寄り添った、実践しやすいお食事の工夫を一緒に考えていきましょう。

次に、そのエネルギー量の範囲内で、栄養バランスの取れた食事を心がけます。食事の基本となるのは、体を作るたんぱく質肉、魚、卵、大豆製品)、エネルギー源となる炭水化物ごはん、パン、麺類など)、体の調子を整える脂質です。これら三大栄養素に加え、体の機能維持に欠かせないミネラルビタミンも、多様な食品からバランス良く摂ることが、健康維持と病態管理には不可欠です。

献立を考える際に役立つツールとして、「糖尿病食事療法のための食品交換表」があります。これは、食品を80kcal(1単位)ごとにグループ分けしたもので、この表を活用することで、多様な食品を組み合わせてバランスの取れた食事を組み立てやすくなります。もし、具体的なアドバイスが欲しい場合は、食事写真や食事記録を持って管理栄養士の栄養相談を利用するのも良い方法です。

血糖値を急上昇させない食べ方の工夫

食後の血糖値の急激な上昇を抑えることは、糖尿病治療において非常に大切なポイントです。なぜなら、血糖値の急激な変化は血管に負担をかけ、合併症のリスクを高める原因となるためです。食事の仕方一つで、血糖値の上がり方は大きく変わります。

血糖値を穏やかに保つための具体的な食べ方の工夫は以下の通りです。

  • ゆっくりよく噛んで食べる:早食いは血糖値を急上昇させやすく、満腹感を感じにくいため食べ過ぎにもつながります。一口一口を意識し、時間をかけて食べることで、血糖値の上昇を緩やかにし、消化も助けます。
  • 規則正しく3食を摂る食事を抜くと、次の食事で血糖値が急激に上がりやすくなります。また、空腹時間が長すぎると体が栄養をため込もうとし、かえって体重増加を招くこともあります。毎日決まった時間に、3食バランス良く摂ることを心がけましょう。
  • 食べる順番を意識する:食事の最初に、食物繊維が豊富な野菜、きのこ、海藻類をたっぷりと摂りましょう。食物繊維は糖質の吸収を緩やかにする働きがあるため、食後の血糖値の急上昇を抑える効果が期待できます。次に肉や魚などのたんぱく質を摂り、最後にご飯やパンといった炭水化物を食べるのがおすすめです。
  • 腹八分目を心がける:満腹になるまで食べるのではなく、「もう一口食べられるかな」と感じる程度で箸を置く習慣をつけましょう。
  • 夜遅い時間の食事を避ける夜間は体がエネルギーを消費しにくいため、夜遅い時間に食事を摂ると血糖値が上がりやすく、脂肪として蓄積されやすくなります。夕食は就寝の2〜3時間前までに済ませるのが理想的です。

また、塩分の摂りすぎは、糖尿病の患者さんにとって高血圧を招きやすく、将来的な腎臓への負担を増やす可能性があるため、注意が必要です。一般的な食塩摂取量の目標は、男性で1日7.5g未満、女性で1日6.5g未満とされていますが、高血圧を合併している場合は1日6g未満が推奨されます。

美味しく減塩するための工夫には、以下のようなものがあります。

  • だしや香辛料、酸味を活用する:昆布やかつおのだしを効かせたり、唐辛子や生姜、レモン汁、お酢などを活用したりすることで、少ない塩分でも料理に風味と深みを与えられます。
  • 調味料は「かける」より「つける」:醤油やソースなどは、料理全体にかけるのではなく、小皿にとって少しずつつけて食べることで、摂取量を減らせます。
  • 減塩調味料を上手に利用する:減塩タイプの醤油や味噌、だしなどを取り入れてみましょう。

外食・間食・アルコール摂取の注意点

日常生活において、外食や間食、アルコール摂取を完全に避けるのは現実的ではありません。大切なのは、これらと上手に、そして賢く付き合いながら、治療を継続していくことです。

  • 間食(おやつ):間食は、ついつい食べ過ぎてしまい、体重増加や血糖コントロールの悪化につながる可能性があります。

    • 量を決める:あらかじめ食べる量を決めて、小分けにしておきましょう。
    • 時間帯を選ぶ:日中の活動量が多い時間帯に摂り、夕食後は避けるのが理想的です。
    • 運動と組み合わせる間食後に軽く体を動かすなど、エネルギー消費を意識するのも良いでしょう。
    • 血糖が上がりにくい間食:ケーキや菓子パンといった糖質や脂質が多いものよりも、ナッツチーズ無糖ヨーグルト野菜スティックなど、血糖値の上昇が緩やかなものを選ぶのがおすすめです。
  • アルコール摂取:アルコールは、適量であれば問題ない場合もありますが、飲みすぎは血糖バランスを崩す大きな原因となります。

    • 目安量:1日のアルコール摂取量は、純アルコール25g程度まで(日本酒なら1合、ビールなら中瓶1本、焼酎なら0.6合程度)が推奨されます。
    • 休肝日:週に数日はアルコールを摂らない「休肝日」を設けるようにしましょう。
    • リスク:過剰なアルコール摂取は、低血糖(血糖値が下がりすぎること)を引き起こしたり、肝臓病やがんのリスクを高めたりする可能性があります。また、アルコールには多くのカロリーが含まれるため、飲み過ぎは体重増加にもつながります。
  • 外食:外食が多い場合でも、いくつかのポイントを押さえることで、血糖コントロールに配慮した選択が可能です。

    • 野菜を意識する:定食の小鉢やサラダを追加するなど、野菜が豊富なメニューを積極的に選びましょう。
    • ご飯の量を調整:ご飯の量を少なめにしてもらったり、半分残したりするだけでも糖質の摂取量を抑えられます。
    • 調理法を選ぶ:揚げ物よりも、蒸し料理、焼き物、煮物など、油分の少ない調理法を選びましょう。
    • 主食・主菜・副菜のバランス:単品料理ではなく、栄養バランスの取れた定食形式のメニューを選ぶのがおすすめです。

糖尿病の運動療法:効果的なやり方と注意点

糖尿病の治療において、運動は食事療法や薬物療法と同じくらい大切な柱です。体を動かす習慣を身につけることは、血糖値を安定させるだけでなく、健康寿命(心身ともに健康で自立した生活を送れる期間)を延ばすために非常に有効です。さらに、肥満、高血圧などの生活習慣病、心筋梗塞や脳卒中といった循環器疾患、がん、認知症といった幅広い病気のリスクを低減する効果も期待できます。

「運動は少し苦手」「何から始めたらいいかわからない」と感じる方もいらっしゃるかもしれません。しかし、無理なく楽しく続けられる運動を見つけることが、治療を継続する上で何よりも重要です。

運動が血糖値を下げるメカニズム

「なぜ運動で血糖値が下がるのだろう?」と疑問に思う方もいるかもしれません。運動が血糖値を下げるメカニズムを理解すると、より積極的に運動に取り組むきっかけになるはずです。主なメカニズムは次の2つです。

  1. 筋肉が血液中のブドウ糖(血糖)をエネルギーとして使うから
    体を動かすと、筋肉はエネルギー源として大量のブドウ糖を必要とします。運動によって筋肉への血流(血液の流れ)が増え、より多くのブドウ糖が血液中から筋肉の細胞へと取り込まれます。結果として、血液中のブドウ糖が減り、血糖値が下がるのです。
  2. インスリンの効き目を良くするから
    糖尿病の患者さんの中には、血糖値を下げるホルモンである「インスリン」が十分に作用しない「インスリン抵抗性(インスリンが効きにくい状態)」がある方が多くいらっしゃいます。有酸素運動は、筋肉への血流を増やし、ブドウ糖を細胞に取り込みやすくします。また、筋力トレーニングによって筋肉量が増えると、インスリンの感受性(効きやすさ)が向上し、インスリンが本来持っている血糖値を下げる力をより効率的に引き出すことができます。

おすすめの有酸素運動と筋力トレーニング

血糖値を効果的に下げるためには、「有酸素運動」と「筋力トレーニング」をバランス良く組み合わせることが大切です。これらを組み合わせることで、それぞれの運動単体よりも良い治療効果が期待できます。

1. 有酸素運動
酸素をたくさん取り込みながら、比較的軽い負荷をかけて長時間続ける運動です。主に血糖値を直接下げる効果が高いとされています。

  • 具体例:
    • ウォーキング(散歩)
    • ジョギング(軽く走る)
    • サイクリング(自転車に乗る)
    • 水泳、水中運動
    • 太極拳
    • ヨガ
  • ポイント:
    • 少し息が上がる程度で、会話ができるくらいの強度を意識しましょう。
    • 毎日少しずつでも継続することが大切です。

2. 筋力トレーニング
筋肉に負荷をかけ、筋肉を強化する運動です。筋肉量を増やすことで、インスリンの効き目を良くし、血糖値が上がりにくい体質を作る効果が期待できます。

  • 具体例:
    • スクワット(椅子に座るように腰を下ろす)
    • 腕立て伏せ
    • 腹筋運動
    • ダンベル体操(ペットボトルなどを利用しても可)
    • ふくらはぎトレーニング(つま先立ち運動)
  • ポイント:
    • 無理のない範囲で、ゆっくりとした動作で行いましょう。
    • 正しいフォームで行うことで、効果が高まり、ケガの予防にもつながります。

日常生活での身体活動(NEAT:ニート)も活用しよう

まとまった運動の時間が取れない方でも、日常生活の中で体を動かす機会を増やす工夫は、とても有効です。これを「NEAT(Non-Exercise Activity Thermogenesis:非運動性活動熱産生)」と呼びます。

  • 具体的な工夫の例:
    • エレベーターやエスカレーターを使わず、階段を利用する
    • 一駅手前で降りて歩く
    • 家事(掃除、洗濯、庭仕事など)をこまめに行う
    • テレビを見ながらストレッチや軽い体操をする
    • 休憩時間に意識して歩く

小さな工夫でも積み重ねることで、全体の運動量が増え、血糖コントロールに良い影響を与えます。

運動を行う頻度、時間、強度

運動の効果を最大限に引き出し、安全に継続するためには、適切な頻度、時間、強度を知ることが重要です。

項目 目安 補足
頻度 週に3日以上、できれば毎日 運動による血糖値改善効果は、およそ3日程度で失われるため、毎日または少なくとも1日おきに継続することが非常に大切です。
時間 1回あたり20~60分 1週間で合計150分以上を目標にしましょう。
  食後1~2時間後に行うのがおすすめ 特に食後の血糖値が上がりやすい方は、この時間帯に運動すると、食後の急激な高血糖を抑える効果が期待できます。
強度 「ややきつい」と感じる程度の中等度 脈拍数で言うと、「(220―年齢) × 0.5」が目安です。例えば、50歳の方なら、1分間あたり85回程度の脈拍が目安となります。
  会話はできるけれど、歌を歌うのは難しいくらいの強さを意識しましょう。  

運動を始めたばかりの方は、短い時間から始め、徐々に時間や強度を増やしていくと良いでしょう。無理はせず、体調に合わせて調整してください。

運動を始める前に注意したいこと

運動は糖尿病治療に非常に有効ですが、安全に行うためにはいくつか注意すべき点があります。自己判断で無理な運動を始めるのは避けましょう。

1. 必ず主治医に相談しましょう
運動療法を始める前には、必ず主治医や専門家(管理栄養士、理学療法士など)に相談し、ご自身の体調や糖尿病の状態に合った運動内容や、運動を行う上での注意点を確認することが最も大切です。

2. 運動を控えるべき状況を知ろう
以下のような場合は、運動を控えたり、中止したりする必要があります。

  • 高血糖が続く場合:空腹時血糖値が250mg/dL以上と非常に高い場合や、体内で「ケトン体(ブドウ糖が使えないときに、脂肪がエネルギーとして使われてできる物質)」が増えている「ケトーシス」の状態、脱水状態、または感染症にかかっている場合は、運動を控えるべきです。
  • 重度の合併症がある場合
    • 重度の自律神経障害(めまいや立ちくらみがひどいなど)
    • 増殖性糖尿病網膜症(目の奥の血管の病気が進行している)
    • 腎臓病(腎機能が著しく低下している)
    • 心臓病や肺の病気
    • 足に潰瘍(かいよう)や壊疽(えそ)がある場合
    • 骨や関節の病気がある場合
      これらの合併症がある場合は、運動の種類や強度に制限が必要になったり、運動自体が禁止されたりすることがあります。特に足の病気がある場合は、運動で悪化する可能性があるため注意が必要です。

3. 運動中の注意点

  • 低血糖の予防:運動中に冷や汗、強い空腹感、動悸(どうき)、手足の震えなどの症状が出たら、低血糖の可能性があります。すぐにブドウ糖などを摂取できるように、常に携帯しておきましょう。
  • 高強度運動のリスク:過度な高強度運動は、血糖値を上昇させるホルモン(アドレナリンなど)の分泌を増やしたり、心臓や腎臓に負担をかけたりするリスクがあります。「ややきつい」と感じる程度の中等度運動が安全かつ効果的です。
  • 水分補給:運動の前、中、後に、こまめに水分を摂りましょう。
  • 適切な靴と服装:足への負担を減らし、ケガを防ぐためにも、クッション性のある運動靴を履き、動きやすい服装を選びましょう。特に糖尿病患者さんは足の感覚が鈍くなっている場合があるので、靴選びは重要です。
  • 準備運動と整理運動:運動の前後には、ストレッチなどの準備運動と整理運動を行い、ケガの予防と体のクールダウンを心がけましょう。
  • 体調の変化:運動中に胸の痛み、息苦しさ、めまい、吐き気などの異常を感じたら、すぐに中止して休みましょう。
  • 環境への配慮:体調が悪い時や発熱がある時、また暑すぎたり寒すぎたりする厳しい環境での運動も、無理をせずに控えるようにしてください。

 

参考文献

本ページの内容は、日本糖尿病学会の診療ガイドラインおよび国際的な糖尿病診療指針・コンセンサスレポートをもとに、患者さん向けにわかりやすく再構成しています。主な参考文献は以下の通りです。

1.日本糖尿病学会 編. 糖尿病診療ガイドライン2024. 南江堂.
2.American Diabetes Association Professional Practice Committee. Facilitating Positive Health Behaviors and Well-being to Improve Health Outcomes: Standards of Care in Diabetes—2026. Diabetes Care. 2026;49(Suppl 1):S89-S131.
3.Evert AB, Dennison M, Gardner CD, et al. Nutrition Therapy for Adults With Diabetes or Prediabetes: A Consensus Report. Diabetes Care. 2019;42(5):731-754.
4.Davies MJ, Aroda VR, Collins BS, et al. Management of Hyperglycemia in Type 2 Diabetes, 2022. Diabetes Care. 2022;45(11):2753-2786.
5.Colberg SR, Sigal RJ, Yardley JE, et al. Physical Activity/Exercise and Diabetes: A Position Statement of the American Diabetes Association. Diabetes Care. 2016;39(11):2065-2079.

監修者

渡辺医院 副院長 
渡辺 雄祐(Yusuke Watanabe)

日本内科学会 総合内科専門医/日本糖尿病学会 糖尿病専門医

横浜市鶴見区出身。慶應義塾大学医学部卒業後、東京都済生会中央病院慶應義塾大学病院川崎市立川崎病院で内科、糖尿病診療の経験を積む。
現在は生まれ育った横浜市鶴見区の渡辺医院で地元に密着した医療を提供するべく、糖尿病・高血圧症・脂質異常症・肥満症などの生活習慣病や、甲状腺疾患・一般内科を中心に幅広く診療。患者さん一人ひとりに丁寧に向き合う医療を心がけている。

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